ニトリとエディオンの提携の背景

2022年4月27日、株式会社エディオンと株式会社ニトリホールディングス(以下、ニトリ)は資本業務提携を発表した。
業務提携の内容は、下記のようになっている(エディオンIR資料より)。
両社は、両グループの経営資源やノウハウを相互活用し、両グループの事業拡大を図ることを目的として、主に以下の事項について協議・検討を行ってまいります。
(1) 魅力的な店舗開発に向けた協働
(2) 商品の相互交流と商品ラインアップ拡充
(3) EC事業でのシナジー創出
(4) 物流ネットワーク及び設置サービス、アフターサービスネットワークの相互活用
(5) リフォーム事業、法人ビジネスにおけるシナジー創出
家電流通業界に新しい一石を投じたニトリとエディオンの提携の背景について探っていきたいと思う。

2021年は家電もホームファッションも低調に推移

エディオンの売上は月次情報によると2021年度(2021年4月~2022年3月)は全店ベースで93.7%。新型コロナによる巣ごもり需要等により好調だった2020年度の反動があるとはいえ、大きく売り上げを落としている。
エディオンだけでなく、他の家電量販企業も似たような業績傾向にある。家電市場全体はここ10年間横ばい状況にあり、当面このような状況は変わらないものと予測されている。
一方、堅調さが続いてきたホームファッション市場であるが、こちらも2020年度は巣ごもり需要で成長したものの、ニトリの2021年度(2021年3月~2022年2月)の国内売上は既存店で90.9%、全店でも93.4%と大きく落ち込んでいる。

2020年度の巣ごもり需要による反動があるとはいえ、国内のホームファッションをけん引してきたニトリの売上にも陰りが見えてきている。
ポストコロナの時代となり、今まで巣ごもり需要等で潤ってきた業界は、軒並み厳しくなってきたといえるだろう。
エディオン、ニトリともお互いメインに展開してきた市場が伸び悩む状況を踏まえ、業務提携は戦略立て直しを進める上で一つの選択肢だったと考えられる。

商品のラインロビングとしての戦略

エディオンは、家電以外の商品の販売比率を増やしている。店舗を見ても従来から注力しているリフォーム関連の提案コーナーに加えて、生活雑貨や玩具といった商品の品揃えを強化していることが分かる。

同社は「お客様の豊かな暮らしを永続的に支える企業」をコンセプトとしており、より良い生活そのものを提案していくためには、住宅や住宅関連商品の品揃えが不可欠となっている。
一方、ニトリも最近では、ホームファッション以外の商品として家電やアウトドア商品を強化している。とくに家電製品については、自社開発商品を増やしており、次の成長商品分野として力を入れている。

しかし、エディオン、ニトリとも課題はある。
エディオンの場合、家電以外の生活関連商品を強化していくには、魅力的な商品開発力と仕入れ量が不可欠となるが、この分野ではニトリが圧倒的な販売力と商品開発力を持っているので、後発企業としては参入・拡大が困難である。その点でエディオンにとってはニトリの商品開発力は魅力である。

一方、ニトリにとっても状況は同じである。
家電製品を強化していくには、やはり商品の企画力と販売力が必要である。家電製品は家電量販企業が圧倒的な販売力を持ち、さらにアフターサービスや家電リサイクル対応が求められる。

ニトリにとっても家電製品は高い参入障壁がある。
以上の点から、エディオンとニトリにとってはお互いの課題を解決できるものとして魅力的な提携になったと考えられる。

新しい業態の開発

実はエディオンとニトリの提携に大きく影響を与えたと考えられる企業がある。
その企業はヤマダホールディングスである。ヤマダホールディングは、「LIFE SELECT」という新業態を展開している。
家まるごとの需要に対応した業態で、売り場面積は6,000~9,000㎡の大型店舗であり、商品構成は家電、玩具、生活雑貨、家具、リフォームである。

LABI LIFE SELECT 立川

ヤマダホールディングスは「LIFE SELECT」を20店舗展開しており(2022年4月現在)、年間20店舗ほど「LIFE SELECT」店舗を増やしていく予定である。
家電量販業界は同質競争が進んでいる。
家電量販企業の主力商品の売上ランキングを見ていても上位はほとんど日本の家電メーカーの商品である。しかも価格は多少の差があるものの、絶対的な価格差はない。
このような状況では、商品力で差をつけることはできず、サービスや接客といった商品以外での差別化となっている。
「LIFE SELECT」業態は顧客にとって生活関連の商品とサービスのワンストップショッピングを可能にしてあり、エディオンやニトリの提携はこの「LIFE SELECT」業態の出店が大きく影響を与えたと考えられる。
エディオンの郊外の店舗は4000㎡前後である。一方、ニトリの大型店舗の面積は4000~6000㎡であり、この二つが一緒になると8000~10000㎡となり、ヤマダホールディングスの「LIFE SELECT」業態に近くなる。
今後、エディオンやニトリの郊外店舗では、「LIFE SELECT」に近い業態店舗が数多く作られると考えられる。

EC事業強化

ところで、ニトリはEC事業について積極的に投資を行い高い成長率を上げてきた。同社のECと物流は日本の企業の中でもトップクラスと言われている。
しかし、ニトリの2021年度の国内通販売上高は前年対比100.8%という数値で、2020年度の前年対比159.3%、2019年度の同114.7%と比較してもEC需要にはブレーキが掛かっている。

ニトリのECは、2020年度急成長した反動があるものの、急速に拡大するECに対応できなかった課題がある。
Amazonや楽天市場も2021年度は苦労しているが、それでも二桁ベースでは成長している。ECでは、アマゾンや楽天市場のように商品のアイテム数が多いほど、小さな需要を積み上げながら獲得できるので優位性が高い。
エディオンもECを伸ばしているが、まだ売上は200~300億円程度とみられ、今後は成長の余地はある(2020年度計画目標180億円)。
家電量販業界ではヨドバシカメラのEC売上が2021年度2,400億円前後あると考えられており、まさに独走状態にある。
エディオンもニトリもEC事業強化は成長戦略には欠かせない要因となっており、EC売上拡大に必要な物流やサービスを相互に強化するものと考えられる。

今回のエディオンとニトリの資本提携は他の家電量販企業にも影響を与えるものと考えられる。
とくに郊外に店舗を展開しているヤマダホールディングスやケーズホールディングス、上新電機、コジマは対抗策をいろいろと打ってくるだろう。
もともとビックカメラが楽天市場と連携し楽天ビックを展開したり、ヤマダホールディングスがアマゾンと連携したテレビを販売するなどの動きがあったが、異業種間の提携はますます活発化していくことが考えられる。
市場が伸び悩む中で、各企業は次なる発展を求めて異業種競合に舵を切り始めている。